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2019.10.29

編集部

『哲学する仏教』誕生秘話 (藤田一照/山下良道/ネルケ無方/永井均[共著])

4人のリレー講座を一冊に収録

こんにちは。サンガ編集部編集長の佐藤由樹です。
このたび、藤田一照先生、山下良道先生、
ネルケ無方先生、永井均先生、4人の共著
『哲学する仏教―内山興正老師の思索をめぐって』
を刊行しました。


『哲学する仏教―内山興正老師の思索をめぐって』藤田一照/山下良道/ネルケ無方/永井均(サンガ、2019年)

本書は禅僧・内山興正老師の50年前の思索について
それぞれが順番に行った「リレー講座」を元にした一冊です。

リレー講座ですから、それぞれのお話は、
まさにバトンを受け継ぐように、
前回の講座の内容を踏まえた上で、
展開されていきました。

それでいて、
「同じテーマなのに
こんなに見え方が違うのか」
というくらい、
四人とも、違う視点の主張が展開されており、
不思議な読みごたえのある一冊となりました。

本書は、私自身も意図しなかった
さまざまな縁がつながって完成した珍しい一冊です。

発売を記念しまして、
リレー講座が開催され、書籍として刊行されるまでの経緯を、
ここでご紹介しようと思います。

内山興正老師の「自己曼画」から始まった

内山興正老師の思索のテーマは、
ごく端的に言えば、
「私とは何か?」
「自己の構造はどのようになっているのか?」
という問いです。

内山老師は、
禅僧としては類まれな哲学的知見をもって
その問いを掘り下げ、1960年代後半から、
多くの著書を刊行してきました。

その思索の過程において、
さまざまな漫画図を創作してきたのですが、
特に注目すべきが、
「第一図」から「第六図」で構成されている
「自己曼画(じこまんが)」です。


「自己曼画」の中の一つ「第五図」
 〔出典:『〔新装版〕進みと安らい』内山興正(
サンガ、2018年)〕

 

この「曼画」という漢字は「漫画」ではなく、
「曼荼羅」の「曼」をとっているということです。

「自己曼画」は、1969年に柏樹社から刊行された
『進みと安らい―自己の世界』に掲載されたものです。

また、実はここ数年、
当時の内山老師の哲学を参照した議論が
さまざまな場で行われており、
約50年前の「自己曼画」がたびたび引用されています。
たとえば、以下の著作や論考です。

 

 

 

  • 「「自己ぎりの自己」と〈私〉の独在性―内山興正老師の思想をめぐって(連載対談 仏教と哲学の対話 第一回)」 永井均/ネルケ無方 『サンガジャパンVol.30』(サンガ、2018年、pp.342-378)

     

 

  • 「「倫理」が生まれるための、〈私〉と「世界」の接点はどこに?―「自己ぎりの自己」と菩薩の実践(連載対談 仏教と哲学の対話 第二回)」 永井均/ネルケ無方 『サンガジャパンVol.31』(サンガ、2019年pp.143-169)

 

  • 「自己ぎりの自己、とその蔓」 永井均 『ウェブサンガ』 /初出:『añjali』(アンジャリ)』第30号(親鸞仏教センター(真宗大谷派)[刊]、2015年)

 

このように、今、さまざまに引用されている「自己曼画」なのですが、
実は、それが掲載されている原典『進みと安らい』は、
もうすでに絶版になっていたのです。

絶版となった『進みと安らい』を復刊する

『進みと安らい』絶版の理由は内山老師が1994年に刊行した『正法眼蔵 発無上心を味わう』に書いてあります。

 

私は昭和四十四年に『進みと安らい』という本を出しました。
しかしその後、これはまだ掘り下げが足りないと自分で感じて絶版にしました。
  『正法眼蔵 発無上心を味わう』内山興正(柏樹社、1994年、p.32)

 

 

この内山老師の「まだ堀り下げが足りないと自分で感じ」という一文も、
実は『哲学する仏教』の重要なテーマになっているのですが、
ともかく、これだけ今、
自己曼画を引っ張り出しての議論が活発に行われているのに、
原典である『進みと安らい』が入手不能になっているのは
もったいないのではないか?
いくら内山老師が「堀り下げが足りない」と感じたとはいえ、
その原典は議論の前提となる文献として、
私たちが入手できる状況になったほうがいいのではないか?

――そのように考え、絶版となっていた『進みと安らい』を、
サンガから新装版として復刊することにしました。

 


『〔新装版〕進みと安らい』内山興正(サンガ、2018年)

そして、『〔新装版〕進みと安らい』の存在意義が、
現代の人々にしっかり伝わってほしいという思いから、
自己曼画を議論されていた四人の方々――
藤田一照先生、山下良道先生、ネルケ無方先生、永井均先生、
に帯の推薦文をご依頼したのです。

 

4人の先生方による奇跡の推薦文が生まれた

4人の先生方には、
特に事前に何も打ち合わせをすることもなく、
おおよその文字数だけお伝えし、
それぞれ自由にご執筆いただきました。

しかし、手元に届いた推薦文を
どのような順で掲載するとよいか、
なんとなく並べてみたところ、
不思議なつながりのある順番となったのです。

それがこちらです。

 

「進み」が迷走に陥らないためにはそこに「安らい」がなければならない。
今こそ読まれるべき内山興正老師の名著、待望の復刊。
〈仏教3.0〉はここから出発した !?

    藤田一照(禅僧)

この世界に所属する私、所属していない私。
この「私の二重構造」が、内山老師のイラストにより、奇跡の視覚化。
老師の意図さえ越えて、21世紀の混迷を照らす光となる。

   山下良道(ワンダルマ仏教僧)

内山老師は本書を「まだ堀下げが足りない」と自身で感じて絶版にしたという。
その理由とは?
老師が墓場まで持っていこうとした幻の作品がついに復刊!

  ネルケ無方(禅僧)

本書(とりわけ第四章)の内山興正の画期的な見地がもし仏教のそれに反しているなら、
間違っている(あるいは思慮が足りない)のは仏教の側です。

   永井均(哲学者)

 

この推薦文について、
少し説明を加えてみたいと思います。

最初に藤田一照先生が、
内山老師の哲学をストレートに紹介し、
〈仏教3.0〉という現代的なテーマでバトンを繋ぎます。

それを受けた山下良道先生は、
現代の〈仏教3.0〉の議論には、
内山老師の自己曼画が不可欠であり、
令和の時代に必要な視点であることを強調します。

さらに、ネルケ無方先生は、
内山老師が「堀下げが足りない」と感じたという
絶版の理由に触れながら、
本書の復刊の意義に迫ります。

それを受けた永井均先生は、
いや、「堀下げが足りない」というのは、
内山老師の自己誤解であり、
「むしろ堀り下げが足りないのは、
仏教の思想そのものでは?」という大胆な提言をする。

――4人の推薦文は、そのように読めるわけです。

帯の推薦文から生まれたリレー講座

こうした復刊した『〔新装版〕進みと安らい』ですが、
この4人の帯に注目してくださったのが、
朝日カルチャーセンター新宿教室の荒井さんです。

荒井さんは、4人のみなさんに、
この帯の順番で、内山興正老師の思索について語る
リレー講座を開催したいと、企画をしてくださいました。

サンガ編集部も喜んで協力し、
2019年5月~6月にかけて、朝日カルチャーセンターで
連続講座「哲学する仏教――内山興正老師の思索をめぐって」
が開催されたのです。

本書は、朝日カルチャーセンターさんの企画・協力をいただきながら、
その講座の内容を一冊に編集した作品です。
講義で先生方がホワイトボードに描かれた図も、
あらためて描き起こして掲載しましたので、
内容を理解するための助けになるのではないかと思います。

永井均先生×山下良道先生の刊行記念対談を開催します

この『哲学する仏教』の刊行記念としまして
2019年12月10日(火)19時より、4人の著者を代表して、
永井均先生と山下良道先生、お二人の対談講演を開催します。

刊行記念イベント2019年12月10日開催

第68回サンガくらぶ


永井均先生 (撮影:横関一浩)


山下良道先生

 

永井先生と山下先生は、朝日カルチャーセンターの
「鼎談・仏教3.0を哲学する」では、
藤田一照先生も含めて、いつも一緒にご登壇されていますが、
一対一の対談は初めてということで、
たいへん貴重な機会になると同時に、
自己曼画について、
かなり深い議論が展開されるのではないかと思います。

というのも、自己曼画の解釈は、
4人それぞれ個性がありますが、
第五図の解釈については、
永井先生と山下先生は、
かなり近い見方で捉えているからです。
それは、
「この世界(第四図)は、
もしかしたら夢なのではないか」
という不安から出発して、
第五図を解釈している点です。

しかし、出発点を同じとしながらも、
さらに議論していくと、
永井先生と山下先生には、明確な違いがあるようです。
それは、哲学と宗教の違いともいえるかもしれません。

永井先生も『哲学する仏教』の「あとがき」の中で、
山下良道先生とネルケ無方先生がこの曼画を
「求道的」に読もうとするのに対し、
永井均先生と藤田先生は「存在論的」に読んでいる
ということを指摘しています。

「求道的」と「存在論的」。
それが「仏教」と「哲学」の違いになるのでしょうか?

どのような展開になるかはまだ分かりませんが、
令和の思想空間に、
新しい視点が開かれる場となるでしょう。
ぜひ『哲学する仏教』をお読みいただいた上で、
永井均先生と山下良道先生が
真正面から語り合う貴重な対談講演に、
ぜひご参加いただければと思います。楽しみです!

 

<お知らせ>ネルケ無方先生による『哲学する仏教』紹介動画です

著者の一人であるネルケ無方先生が、
刊行したばかりの『哲学する仏教』を
youtube動画で紹介してくださいました。
こちらもぜひご覧になってみてください。