サラナ サラナ

 

川本佳苗『〈連載〉ぶぶ漬けどうどすか?』 
新進気鋭の仏教学者 川本佳苗こと、元・サヤレー・スナンダの「ぶぶ漬けどうどすか?」――第2回「ミャンマーの僧院生活」
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新進気鋭の仏教学者 川本佳苗こと、元・サヤレー・スナンダの

「ぶぶ漬けどうどすか?」

第2回「ミャンマーの僧院生活」

 こんにちは、法名スナンダこと川本佳苗です。すっかり冬ですね。京都はえろぅ寒おすえ!

 12月6日(木)、御茶ノ水での「ジャヤティラカ博士論文集 刊行記念イベント」には、多数の方々にお越しいただき、ありがとうございました!  私ったらパネルディスカッションで登壇しているのに、何度も吹き出してしまって失礼しました。もっとその、アレですよね、関⻄弁で⾔うところの「シュッと」していないといけなかったですよね。

 さて、「ぶぶ漬けどうどすか?」の連載第2回目では、「ミャンマーの瞑想院生活」について書こうと思います。

ヤンゴンでの大学生活

 私がミャンマーに到着したのは、2008年7月8日でした。実は、新学期は6月上旬から始まっていたのに、東京のミャンマー大使館の手違いで私に入学受入証が届かなかったんです!

 

国際上座部仏教布教大学(ITBMU)

 そんなわけで、約1ヶ月遅れて私はヤンゴンの国際上座部仏教布教大学(International Theravada Buddhist Missionary University、通称ITBMU)に入学しました。ITBMUの学生は、9割以上が僧・尼僧の出家者でした。そして、留学生は大学敷地内の学生寮で出家者と一緒に暮らしたので、ほぼ完全に僧院と同じ生活を送りました。朝食は6:00、昼食は11:00で、僧院のように鐘の音で食事時間が告げられます。在家者には簡単な夕食も準備されましたが、私は食べませんでした。

 大変だったことは、食事よりも夕方6:00の門限でした。本当に寮の門が閉まってしまうんですよ! 私はしょっちゅう柵をよじ登って、それを見た僧侶の学生たちにワイワイと囃し立てられていたので、寮の管理人に「マチョーネ!」(飛び越えないで!)と怒られていました……。

 

マンダレーの僧院にて。沙弥たちの学習の様子

 私がミャンマーに留学していたころは電気の普及や安定が不十分だったこともあり、昼間の明るい時間帯に勉強を終えて、夜は昼間に学んだことを確認する時間にあてます。ろうそくの灯りの中で、先生の比丘が沙弥たちに、昼間に教えたことを暗誦させていました。マンダレーの僧院に泊めていただいたとき、薄暗い部屋の向こうにその光景を見て、小さな沙弥たちに「がんばれ~!」と心のの中で声援を送ったのを覚えています。

 ブッダの時代から変わらず、仏教の世界では暗誦が命です。そらんじてナンボです。アーナンダなみの暗記力がカッコいいのです。ですから、留学時代にほとほと苦労したことは、とにかく暗記する量が多かったことです。暗記していないと試験で何も書けませんし……。でも出家者の学生は暗記が得意で、4、5ページなんて一晩で覚えてしまうんですよ。私はといえば、替え歌を作ったり、振り付けてダンスにしたり、記号で覚えたりと、とにかく必死に工夫して覚えていました。

瞑想寺院での生活

 私の出家経験についてお話します。大半のテーラワーダ仏教国のサンガでは比丘尼は認められておらず、ミャンマーも例外ではありません。ミャンマーの女性出家者は、「ティーラシン」と呼ばれて、剃髪し八戒・九戒・十戒のいずれかを守って僧院で暮らします。 

 ティーラシンは、他の人たちから「サヤレー」と呼びかけられます。ミャンマー語で「サヤ」は指導者または先生という意味で、サヤレーの「レー」は若い・小さい・レベルが低いという意味ですから、フェミニストが聞いたら怒りそうな呼称です。

 私の別名「スナンダ」はサヤレーとしての法名なのです。「善いこと好む者」という意味で、日本風の名前にするなら善喜(よしき)さんでしょうか。スナンダは、ミャンマー語だと「トゥーナンダ」という発音になります。ミャンマーでは生まれた曜日で名前に付ける音が決まりますし、性格や他人と相性も決まると信じられています。

 私の法名がトゥ…で始まるのは金曜日生まれだからです。ちなみにブッダも金曜日生まれだそうです。金曜日生まれの皆さん、喜びましょう! でも、ブッダが生涯たくさん法を説いて回ったため、金曜日生まれはおしゃべりだと言われます(図星です)。

 

サヤレー・スナンダ時代の私

 脱線してしまいました。私の出家経験についてでしたね。私は2008年10月にパオ(Pa-Auk)瞑想院のモービー支部で出家しました。モービー寺院の住職であるクムダ・サヤドーは毎年「はらみつ法友会」の企画で日本の瞑想合宿を開いてくださっていますので、ご存知の方もいらっしゃると思います。(編集部注:『サンガジャパンVol.25 原始仏典』にインタビュー掲載)

 一般的な僧院と瞑想院との大きな違いは、前者では出家者が共同部屋で寝ることも多いのですが、後者では沈黙行の修行を重視するために、クティと呼ばれる小屋に1人か2人で住みます。そんなわけで、私はマイ・クティで1人で生活していました。

 当時、モービーの僧院では、水道は僧院内のタンクから引かれていましたけど、電気は通っていませんでした。ですから、夜は本当に真っ暗でした。毎朝4:00から瞑想開始なのですが、起きたら懐中電灯をたよりにバスルームに行き、顔を洗います。それから、やはり懐中電灯をたよりにクティを出て瞑想ホールへと歩きます。本当に真っ暗なので、空の星がとっても美しかったです。

 1時間半瞑想してから、朝の読経を行います。パーリ語で「十二縁起」とその逆観を唱えます。暗闇で読経していると、執着がいかにこの生で死んだ後もなお次に続く生を作ってしまうのかという、あの輪廻のシステムをしみじみと内省して、「はよ解脱せなあかんよな……」と痛感していました。

 その後は、朝食のため食堂に集まります。食事をいただく前に『アーサワ(煩悩)経』(AN 58)に記述される「パティサンカー・ヨーニソー……」で始まる「施食の観察」を読経します。私たちが食事をいただくのは遊びや美容のためではなく、健康な体と清らかな生活を維持するためであることを内省するのです。読経後、数種類の食事を鉢や食器に入れていただいたら、自分のクティに戻って食事します。食事も立派な修行の一部であることはITBMU留学時代も同じで、黙々と食べる毎日に慣れてしまった私は、帰国直後、食事しながら歓談を続けるのに苦労しました……。

 

僧院の一日のスケジュール
 4:00  起床
   瞑想(1時間半)
 5:45  読経
 6:00  朝食、休憩
 7:00  瞑想開始
 10:00前  瞑想ホールから退出。入浴
 10:30  昼食
 12:30  瞑想(1時間半)
 14:00  インタビュー
 14:30  瞑想
 15:30  休憩
 16:00  瞑想
 17:00  瞑想終了。休憩。(ときどき入浴)
 18:00  読経
 21:00  就寝

 

 朝食後は7:00頃から瞑想ホールに行って修行開始です。10:00ごろまでひたすら瞑想します。私はよくノートに進捗を記入していました。記入内容は、日付・各セッション(瞑想した時間帯)で目標とする集中時間・実際に集中できた時間・何が集中の妨げになったか・瞑想中に浮かんだヴィジョンや想念などでしょうか。

 私は昼食前に入浴する派(派閥なんてないですけど)でしたので、10:00までに午前の瞑想を切り上げていました。入浴といっても電気もガスもありませんので、行水です。入浴で使った水を使ってついでに洗濯します。何でも手洗いです。毛布とかゴザとか洗うときは大変なんですよ。知り合いの日本人サヤレーは、長年の瞑想院生活の後ITBMUで洗濯機に再会(?)なさったとき、「友達よりも誰よりも会いたかったわ!」と抱きついたそうです。Washing machines are girls’ best friendsなんです。

 10:30になったらまた朝食と同じ手順を踏んで、クティで昼食します。食後はお昼寝します。東南アジアの午後は暑いので、あまり動かない方がいいです。それに昼食は、その日最後の食事いわばディナーです。かつ次の食事(翌朝6:00)まで約18時間もあいてしまうので、しっかり食べておかないといけません。だから昼食後は満腹になるので、横になった方がいいのです。

 午後最初の瞑想は12:30からの1時間半です。このセッションは非常に重要です。なぜなら、この直後にクムダ・サヤドーとのインタビューがあるからです。瞑想の進捗を報告したり、質問したりします。サヤドーが修行者ごとに課題を与える場合もあります。通訳担当の比丘が非常にマイルドな日本語に変換してくださっているのと、サヤドーの穏やかな笑顔のせいなのとで日本人修行者はまったく気づかないのですが、ミャンマー語が聞き取れるようになると、サヤドーがグサグサと厳しいことをおっしゃっていることが分かります。

 サヤドーに課題を与えられた後、14:30から15:30までまた1セッション、そして16:00から17:00までもう1セッションして、その日の瞑想時間が終わります。お寺のスタッフが配ってくださるジュースを飲んだら、自分のクティに戻ります。汗をかいた日は、このときもう1回入浴するときもあります。

 18:00に夜の読経のためにまた瞑想ホールに行きます。このとき、いわゆる三蔵の経ではなく、蔵外文献であるブッダゴーサの「マハー・ナーマッカーラ」を読経で始めることがパオ僧院の特徴のひとつです。ブッダゴーサによる韻を踏んだ美しい詩文を唱えながら、私はいつも感動していました。後で自分でパーリ語を調べて翻訳したとき、ただひたすらブッダを称えるために選ばれた美しい言葉の羅列とパーリ語の豊富なボキャブラリに、「ブッダゴーサどんだけブッダのこと好きやねん!」と涙が出そうになったことを覚えています。「マハー・ナーマッカーラ」の次は、ミャンマーの僧院で共通して読経されるパリッタと呼ばれる曜日ごとの経(たとえば日曜日は『吉祥経』、火曜日は『慈経』)を唱えます。最後は、録音されたパオ・サヤドーの法話を皆で聴くのですが、ミャンマー語が分からない外国人はこのとき退出します。

 21:00から22:00の間には皆、就寝します。以上が一日の修行生活です。大体毎日7、8時間瞑想することになります。

出家の思い出

 

モービー僧院にある仏像

 大学の休暇中に僧院でサヤレー・スナンダとして修行できたことは、私の人生で最も貴重な経験のひとつになりました。衣食住をサポートしてもらえて毎日瞑想だけに専念できる生活ほど幸福なことはありませんでした。でも、その生活は終わりを向かえ、私がヤンゴンの大学に戻る日がきたのです。

 それからは苦悩の日々でした。ひとつは戒の問題です。パオ瞑想寺院のサヤレーは十戒を保持しますので「金銭に触れない」ことも守らないといけません。でも、大学で学生生活をする私には、私の代わりに買い物に行ったり、移動するための車を用意してくれたりするお付きの者(カッピヤ)はいませんでした。だから自分で自分の面倒を見なければいけませんでした。そのたびにお金を触っている=戒を破っているという罪悪感で気持ち悪くなりました。

 次に、理想と現実の自分とのギャップが苦しかったです。私が新米サヤレーであっても、ひとたび外に出れば私は「出家者」とみなされます。それに加えて先輩の女性出家者からはチェックの目が光り、私のふるまいにダメ出しされるときもありました。それなのに清浄な修行者として完璧にふるまえない自分の未熟さに、自己嫌悪の連続でした。

 ミャンマーにいた3年間、寮の自分の部屋で本当によく泣いていた記憶があります。出家経験以外にも勉強が大変だったり、ミャンマー人や他の留学生と理解し合えなかったりで、いろいろナーバスになっていました。そんな苦労話もまたの機会にできればと思います。

 次回の第三回連載は、「仏教道徳は誰のため?」についてお話しようと思います。日本では一つの熟語になっている「戒律」ですが、正確には戒と律は同じではないからです。その違いをご説明しようと思います。

 でも、そのほかにミャンマー仏教で知りたいこと、スナンダに質問したいこと、連載で取り上げてほしいことなどのリクエストがございましたら、連載に取り上げますので、お待ちしています。また、励ましのお言葉や嬉しい感想なども、メールアドレス[info@samgha.co.jp宛て、件名に「ぶぶ漬け」と書いてどうぞ送ってくださいね!

 

 それでは、皆さま、よいお年をお迎えください。

 

 追伸 私は12月28日から1月3日まで、千葉県の民宿で開催される、パオ瞑想のディーパンカラ・サヤレーの指導による瞑想合宿で通訳を務めます。よろしかったら、房総半島でお会いしましょう。

 ディーパンカラ・サヤレーの瞑想合宿のお問い合わせはこちらまで。
http://parami-library.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/index.html#entry-124495644

 

 スナンダこと川本佳苗

 

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川本佳苗(かわもと・かなえ)
京都府出身。出家名スナンダ。京都大学東南アジア地域研究研究所研究員。専門は仏教倫理(自殺・自死)と東南アジアの瞑想実践・仏教文化。2008年よりミャンマーの国際テーラワーダ布教大学に留学し、パオ(パーアゥッ)瞑想院で尼僧として修行する。2014年にタイのマハーチュラーロンコーン大学で修士号を取得後、日本学術振興会特別研究員(DC)・ベルン大学宗教学研究所研究員を経て、2017年に龍谷大学大学院で博士号を取得。国内外で広く活動し、”Love Incessantly Flows: Mae Naak, a New Asian Opera Heroine Born outof a Thai Buddhist Narrative“(Contemporary Buddhism、2017)、「パーリ経典に描かれる比丘の自殺と対話の意義」(『別冊サンガジャパン④ 死と輪廻』、2018)など多数の論文を発表。『K.N.ジャヤティラカ博士論文集 第1巻』を翻訳。

Website: https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/organization/staff-2/kawamoto/

 

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