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ブラザー・サンライト 
プラムヴィレッジでの僧侶生活~【特別編】正念。「良いマインドフルネス、悪いマインドフルネス」について~
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プラムヴィレッジでの僧侶生活【特別編】

正念。「良いマインドフルネス、悪いマインドフルネス」について

 

 

皆さま、こんにちは。今日は2019年、5月7日火曜日。午後13時です。

私たちは現在「プラムヴィレッジ来日ツアー2019」の真っ最中です。

昨日、3泊4日の富士山リトリートを終えて、プラムヴィレッジ僧侶団はいま富士山麓の神社にお参りをしながら、東京へと戻る途中です。明日からは来日ツアー最後のイベント「日本伝統仏教者向けリトリート」が、神奈川県の曹洞宗大本山・總持寺にて始まります。

この『プラムヴィレッジでの僧侶生活 〜戒律とマインドフルネスの日々〜』は、前回までの全4回で、一応完結の予定でした。ところが私がタイ プラムヴィレッジから日本ツアーへ向けて出発するまさにその日(4/24)の朝に、すばらしいシンクロニシティが起こりました。そこで急きょ、もう一回この「特別編」を、追加させていただくことになりました。

来日ツアー2019直前の出来事

去年一年間、私がタイの伝記研究クラスに所属していたことは前に書きました。(連載第3回)

「タイに関する最も正確な伝記」を出版する予定で、私たちは熱のこもった調査研究を続けていました。そんな中、とつぜんタイが故郷ベトナムに永住帰国をされたのです。私たちの指導教官だったダルマティーチャーも、タイに付き従ってベトナムへ移られました。それによって、当然まだ何年も続くと信じきっていたあの素晴らしい研究室が、わずか一年で、突如休止となったのです。

「行雲流水ですね、私たち僧侶は! この研究クラスには、私もとりわけ深い愛着が湧いていました。でもこれぞ無常のプラクティス(練習)ですね。執着をすぱっと断ち切って、お別れです。それでは、みなさん。さようならー!」

明るい笑顔を振りまきながら、私たちの先生はあっという間に去って行かれました。まさしく、行く雲、流るる水の如く。

残された我々は正直とても残念でしたが、やはり「無常」とはスゴイものです。代わりに私たちを指導してくださる先生が、今度はなんとドイツのプラムヴィレッジからやって来てくださったのです。そしてそれは……

シスター・アナベル登場

かの有名な(プラムヴィレッジに関わる者では知らぬ人はいない)、シスター・アナベル(漢字名: 真徳、ベトナム語名: チャンドゥック)でした。

シスター・アナベル

タイの伝記研究室はなくなったけれど、その代わり、今度私たちにはシスター・アナベルの生徒となって仏教哲学を学ぶ、という夢のような機会が訪れたのです。

彼女はイギリス人で、タイの最初の西洋人の弟子。ギリシア古典の先生でした。

1988年。タイが初めて自分の弟子を出家させた時、ブッダの聖地・インド霊鷲山の山頂で、まず3名だけに出家式を行いました。シスター・チャンコンと共に、彼女はその時の一人でした。

1988年。霊鷲山頂でのシスター・アナベルの出家式。左がタイ。

 

八正道のベースにある正しいマインドフルネス

 

じつは私はこのシスター・アナベルに「今回の来日ツアー2019に来ていただけませんか?」と直訴していました。一挙手一投足、あらゆる立ち居振る舞いにマインドフルネスの香気が漂う彼女のような存在に、ぜひ日本へ来てほしかったからです。

しかし今回は母国イギリスでのツアーと日程が重なってしまい、彼女の来日はかないませんでした。

今朝は、そのシスター・アナベルの研究クラスでした。

私にとっては日本ツアーへ出発する日の朝の、最後の授業。シスターにとってはイギリスツアーへ出発する直前の、最後の授業(英国ツアー終了後にクラスは再開されます)。そして今朝は、彼女の連続講義「八正道」の第1回目なのでした。

 

シスターはブッダの教えの“ベース“である「八正道」の更に”ベース“としての「正念」について、1時間話されました。まずは、話をこう切り出されました。

「正念。つまり正しいマインドフルネスがある、ということは、正しくないマインドフルネスがある、という事です」

そして、こう続けられました。

「物資文明の世では現在、目的達成を掲げた商業的なマインドフルネスが、たいへん流行しているそうですね。私はそのことに対して、ある危惧感を抱いています。マインドフルネスは、ブッダの教えのベースであり、根幹です。なのにそこから精神性、スピリチュアル性という大切な要素を切り離してしまえば、それは当然ブッダが示された方向性からは、逸れていく可能性が大きいでしょう」

 

「お金を稼げるようになるためのマインドフルネスとか、あるいは……正確に人を殺すためのマインドフルネスとか? もし軍隊などで教育されたとしても、それが間違った、悪いマインドフルネスなんだとハッキリ認識ができなくなってしまう……そういう怖れも出てくるでしょう。精神性を排除してしまったら」

 

私はオウム真理教事件や、山下良道師が語られた「非常に辛い時期」のことを思い出しました。

更に、日本が一丸となって暗い戦争に向かってひた走った、あの時代のことも思い出しました。

 

するとシスターは立ち上がり、黒板(正確にはホワイトボード)に向かって、ゆっくりと、マインドフルに、字を綴りはじめました。

「ブッダはいくつもの経典の中でおっしゃっています。よろしいですか? マインドフルネスにとって、最も大切なこと。それは……」

そして今日最初に書かれたセンテンスが、下の写真の中に私が赤線を引いた部分です。

シスター・アナベルの今朝の授業より @タイ プラムヴィレッジ

 

「Sati based on sīla」(マインドフルネスのベースは戒)

「Sati based on sīla」

sati はパーリ語で「念=マインドフルネス」を意味します。「気づき、思い出す」ことです。sīla は「戒」です。つまり「Sati based on sīla」とは、「念=マインドフルネス(気づき)のベース(基礎)は戒」ということです。これは前にタイが指差されていた「sīla(戒)=smṛti(念)」とまったく同じことだと言えるでしょう(smṛti はサンスクリット語の「念=マインドフルネス」)。(連載第2回の2つめの写真)

 

「ですから『念=マインドフルネス』が、ブッダの示された人間が向かうべき方向を示す指針=『戒律』から切り離されてしまえば、それはベースを失ったマインドフルネスとなるでしょう。それはブッダが八正道で強調された『正念』=正しいマインドフルネスとは、違うものだということです」

「Sati based on sīla」

まさに私はここに書き続けてきた、この連載のテーマにピタリと重なる今朝のシスター・アナベルのお話にとても驚き、引き込まれ、前のめりになって聴き入っていました。

するとシスターはそんな私の「気」に応ずるかのように、私の目をじいっと見つめながら、こうおっしゃったのです。

ZENの特質、日本の特徴

「日本の禅が、ひと昔前に、アメリカへどんどん入っていった時期がありましたね。その時アメリカ人たちは熱狂的にZENを受け入れました。でも日本の禅は、戒律のことは何も言いませんでしょう? 『戒律=マインドフルネス』とは切り離れて、ひたすら内なる深い集中に入っていく瞑想ではないでしょうか? ZEN は? だからZENでは、犯罪や、アルコール中毒や薬物問題、性犯罪などといった、アメリカが抱える具体的な問題を根底から救うことは、なかなか難しかったのではないでしょうか?」

 

私は手を挙げて、シスター・アナベルに答えました。

「シスター、それはアメリカのZENにおいて、だけではないのかも知れません。それは日本的な精神性の、特徴なのかも知れません。日本人は深い集中力をもって事に突きすすむのは、とても得意な気がします。けれども、タイのように立ち止まり、『揺るぎない鋼鉄の強さと、とてつもない慈悲』で、人間が向かうべき方向性を指し示すような事は、かなり難しいようにも感じます。

今から24年前……タイが日本に来られた時、若い日本人僧侶たちとの集まりを持たれたそうです。彼らが絶望的な日本仏教の現状をシェアするのを聞いて、タイは『具足戒の復活を』とおっしゃったそうです。けれども、その場にいる誰一人として、まるで意味が分からなかった、ということです。この話は……日本的な精神性をよく象徴しているような気が、私にはします」

シスター・アナベルから託された言葉

「24年前…私も、その場にいましたよ」

シスターが言われました。

 

「えーっ、そうでしたかー!」

と、私。

 

シスター・アナベルは静かに微笑まれました。

「あれは、京都でした……ね」

 

「ええ、そうです! そうです! そして今回の来日ツアー2019では、初めて、日本仏教と戒律をテーマにしたリトリートを行います! 24年目にして、今ようやくその時が来たんだと、私たちは思っています」

 

「そうですか…」

シスターも、昔を思い起こすような表情になって、感慨深げでした。

 

「そうですねえ……具足戒の復活。そこまでは、必要ないかも知れませんね。日本の現状では。『5つのマインドフルネス・トレーニング』だけでも、十分なのではないでしょうか……」

 

「はい」

 

「いつ、日本へ出発ですか?」

 

「今夜です。シスター、いつかぜひ、もう一度、日本においでください」

 

「ありがとう……」

そしてしばらくの沈黙のあと、

 

「タイの思いを、一緒に日本に連れていってくださいね、ブラザー・サンライト」

 

私は深い感銘を受けました。

いまの私には、タイの思いを、あのタイの言葉の重さをともに共有できる、仲間たちがいます。日本にも、プラムヴィレッジにも!

彼らと一緒に企画した、今回の「日本伝統仏教者のためのリトリート」。

明日から、その3日間が始まります。

テーマは…

「仏教における《原点(オリジナル)としてのマインドフルネス》 〜日本仏教とプラムヴィレッジの相互対話〜」

 

止まっていた時計が、動き出します。

24年ぶりに。

北口本宮冨士浅間神社にて。

 

 

 

リトリート開催中

 

日本伝統仏教者のためのマインドフルリトリート

 

《日時》2019年5月8日〜10日    《会場》曹洞宗大本山總持寺

※現在進行中!(すでに応募は締め切られています)

 

《特別プログラム・レクチャー》

 

①「道元の禅・無心のマインドフルネス ~その理論と実践~」

講師: 藤田一照 先生(前曹洞宗国際センター所長)

 

②「仏教における戒律の問題と、マインドフルネスの意義」

講師: 蓑輪顕量 先生(東京大学人文社会系研究科教授)

 

③「戒律、サンガ、マインドフルネス・トレーニング(気づきの練習)の密接な関係について」

講師: ブラザー・ファプチャック (プラムヴィレッジ・ダルマティーチャー)

主催/全日本仏教青年会・プラムヴィレッジ招聘委員会

協力/曹洞宗大本山總持寺・公益財団法人仏教伝道協会


後援/世界仏教青年連盟(WFBY)

 

 

 

【プロフィール】

ブラザー・サンライト(俗名:宮下直樹 みやした・なおき)

1964年、富士山麓の古い神社の家系に生を受けるが、フジヤマ織りの会社を営む父の仕事で、大阪に生まれ育つ。大学で東京に出て、竹内敏晴、野口三千三と出会う。彼らの元で身心ワーク(竹内レッスン、野口体操)に開眼。仲間たちと独自の身心ワークの探求(虹の会)を開始。大学院(フランス文学研究科)での研究テーマは「リアリズムとは何か」。この頃、富士山麓の神社の宮司となる。その後、坐禅の本格修行に入って10年間、臨済宗の専門道場に通参。2012年8月、東京八王子のミニリトリート(東京サンガ主催)でプラムヴィレッジの「マインドフルネス」と出会う。2013年、ティク・ナット・ハン師を日本に招聘する活動を開始。その後、仲間たちと「微笑みの風サンガ☆東京」「プラムヴィレッジ招聘委員会」を立ち上げ、毎年「プラムヴィレッジ僧侶団マインドフルネス来日ツアー」を実現。2016年、2017年と、タイ プラムヴィレッジで「三ヶ月間出家プログラム」を二度体験後、正式出家して、沙弥となる。2019年4月末、「来日ツアー2019」でプラムヴィレッジの僧侶となって初来日する。

 

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私と世界を幸福で満たす食べ方・生き方怒り怖れ和解ブッダの幸せの瞑想【第二版】今このとき、すばらしいこのときティク・ナット・ハンのマインドフルの教え