サラナ サラナ

 

ブラザー・サンライト 
プラムヴィレッジでの僧侶生活 〜戒律とマインドフルネスの日々〜第3回「タイの初恋」
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連載第3回

「タイの初恋」

 

戒と恋。「愛の心を育てる」について

 

去年1年間、私はここタイランドのプラムヴィレッジで、タイの生涯を研究するクラスに所属していました。

それはちょうど大学院の研究室みたいな感じでした。

指導教官はタイの最初期の弟子で、ずっとおそばでタイのことをお世話し続けている、プラムヴィレッジを代表するダルマティーチャーの尼僧でした。3年前にタイがフランスからタイランドへ移られた時、タイと一緒にここへ移って来られた方でした。

私たちは大変ラッキーでした。

タイの人生を最もよく知るお一人が、毎回いろんな貴重な資料を教室に持ち込んできて、私たちはそれらを突き合わせながら、一緒にタイの人生を再構成していきました。この私たちの研究成果は1冊の本にまとめて、「最も正確なタイの伝記」として出版する計画でした。私たちの研究姿勢も、おのずと熱を帯びていきました。

 

その過程では、じつに様々な、興味深い発見がありました。

たとえば、「恋」。

驚くべきことに、タイは生涯で2度の恋を、御自身で認めていらっしゃいます。

「タイの初恋」に関しては、なんとフランスでの21日間リトリートの連続テーマとして取り上げられ、それは1冊の本にまでなっています。とても美しい本です。戒律の世界の内側で、様々な葛藤を体験しながら、けっきょく戒律に守られて「初恋」が「真の愛」に変容していく過程が述べられています。『愛の心を育てる』というタイトルの本です。残念ながら邦訳は出ていませんが。

『愛の心を育てる』ティク・ナット・ハン

私たち研究チームは、この初恋の女性に関する資料や証言も集めました。そして『愛の心を育てる』で語られているその女性(尼僧です)と、現実のその方との違いにまで考察は進みました。ベトナムの、二人が初めて出会った場所までも訪れました。それはとても興味深い研究調査でした。

 

けれども私にとって、もっと衝撃的だったのが、タイの二度目(で最後)の恋でした。

相手の女性が、日本人だったのです。

1959年3月に日本で開催された「釈尊二千五百年祝典」に出席するため、ベトナム仏教団の代表として、タイは日本を訪れました。初めての外国体験。タイ32歳の時でした。

ところがひどく体調を崩されて、タイはある病院に入院されました。この時、20歳の日本人の看護婦とタイは恋に落ちたのです。二人とも詩が大好きだったので、漢詩などを交換されたそうです。

結局、タイは退院と同時に帰国するので、何事もなく二人は別れるほかなかったのですが、

「ブラザー・サンライト!これは日本人のあなたに課せられた、重大なミッションですよ。その病院の看護婦さんを探し出し、何とか、直接話を聞き出してください。急いでね! 彼女は今、ちょうど80歳のはずです」

 

私は現在その病院で看護士をされている方を探し出し、コンタクトを取ることにまで成功しました。そしてこの重大な調査に対する協力を依頼しました。

まもなく、彼女から一通のメールが届きました。

「60年も昔のことです。何一つとして、調べる手立てがありません。今回はお力になれずに、大変申し訳ありません」

タイの伝記研究室メンバーたち

 

戒と戦争。「14のマインドフルネス・トレーニング」について

 

そのタイの伝記研究の過程で、私にとって一番大きな体験だったのは、タイが愛する祖国ベトナムを追われ、亡命せざるを得なくなっていく時代のことでした。

ベトナム戦争の勃発で、苦労して作った学校が教え子もろとも爆撃を受けたり、仲間たちが次々と若い命を落としていく中で、タイは戦争に対して異を唱え、ベトナム停戦と平和を訴えて、世界中を駆け回りました。祖国を二分して争う共産主義陣営にもアメリカ陣営にもくみせず、両者の戦いそのものを止めようとした結果、両陣営から敵対視されて命を狙われる状況に陥りました。

しかし、この時のタイの活動には、超人的なものがありました。

いろんな国のいろんな都市を回りつづけ、議会で演説したり、平和会議に出たりして、「毎晩寝る都市が違った」という終わりなき訴えの旅が続く中で、タイは絶えずマインドフルな呼吸に立ちかえり、横たわってくつろぎの瞑想(トータルリラクゼーション)をおこない、せかせか歩き回るアメリカの人たちを目にしながら「ゆっくりと、一歩一歩をあゆんでいく」歩く瞑想への決意を高めていった、と言われます。

 

最後にベトナムを出る直前、シスター・チャンコンを筆頭にした在家者グループのリーダー6人に対して、タイは14戒=「14のマインドフルネス・トレーニング」を授けました。そして彼らと共に「オーダー・オブ・インタービーング」(相互存在教団)を設立しました。1966年2月5日のことでした。

その後、数週間の予定でアメリカに旅立ったタイを見送ると、6人は国内に残り、ほかの仲間たちと共に戦火の下での救済活動を続けました。自分たちの身にも危険が迫る中、医療品を運び、食料を運び、破壊された村々を何度爆撃されても再建し続けました。「オーダー・オブ・インタービーング」、それは人々を苦しみから救うための、菩薩たちの集団でした。この時の集団が、現在のプラムヴィレッジへと、そのまま直結しているのです。

タイはけっきょくそれから祖国に帰ることができなくなり、以来約40年にも及ぶ長い亡命生活へと入られました……。

 

このようなタイの人生の軌跡を学びながら、絶えず私の頭の中に浮かび上がってくることは、我が祖国のことでした。私の内部に胚胎し、発芽し、どんどん大きく育っていった、最大の問い。

それは……

「なぜ日本では、タイのような存在が出なかったのだろう?」

 

たとえば太平洋戦争の中で、日本の仏教者たちは、宗教家たちは、どのような立場をとったのだろう? タイの人生を深く学べば学ぶほど、自ずとそうした関心が、私の中では高まってきました。

そして仲間の僧侶たちとタイの人生を調べながら、同時に自分自身では、戦下の日本での宗教者たちの行動についても調べだしました。そして私は、その両者のあまりの対極さに、呆然として、息を飲む思いでした。ますます、ますます、問いは大きくなる一方でした。

「なぜ日本には、一人のタイも出なかったのか?」

 

以下はベトナム戦下で結成された「オーダー・オブ・インタービーング」設立メンバーに対して、タイが授けた「14のマインドフルネス・トレーニング」の第1番です。

 

《14のマインドフルネス・トレーニング 第1番》 「心の開放と公平さ」

「狂信と不寛容がつくりだす苦しみに気づき、盲目的な崇拝や、あらゆる教義、理論、イデオロギーは、たとえ仏教でも絶対視しないと誓います。仏教の教えを、慈悲と理解を育てる導きの手段として受け止めます。それは闘ったり、殺したり、いのちを捧げるような教えではありません。多くの狂信は、ものごとを二元的かつ差別的に認識した結果であると理解します。すべてのものを公平な視点と相互存在(インタービーング)の洞察によって観るように自分を訓練し、自分と世界に存在する独断と暴力を変えていきます」

「オーダー・オブ・インタービーング」設立メンバーの6名。左端が現在のシスター・チャンコンです。

 

リトリートのお知らせ

2019年5月8日〜10日。

私ブラザー・サンライトを含むプラムヴィレッジ僧侶団12名が、神奈川県にある曹洞宗大本山・總持寺にて、

「日本伝統仏教者のためのマインドフルリトリート~日本仏教とプラムヴィレッジの相互対話~」

を行います。共催してくださるのは、全日本仏教青年会。

2泊3日の私たちのリトリートを貫く全体テーマは、

「仏教における〈原点(オリジナル)のマインドフルネス〉」。

 

日本伝統仏教者のためのマインドフルリトリート

ゲストに藤田一照・蓑輪顕量 両先生をお迎えしての特別プログラムは

「日本仏教におけるマインドフルネス」

「仏教の戒律・サンガと、マインドフルネス」

についての、レクチャー&ディスカッションです。

 

總持寺の朝課に参加しながら、プラムヴィレッジの僧侶たちと一緒に瞑想し、学び、対話し、体験をしていく、2泊3日のリトリートです。

 

 

《日時》2019年5月8日〜10日    《会場》曹洞宗大本山總持寺

 

《特別プログラム・レクチャー》

 

①「道元の禅・無心のマインドフルネス ~その理論と実践~」

講師: 藤田一照 先生(前曹洞宗国際センター所長)

 

②「仏教における戒律の問題と、マインドフルネスの意義」

講師: 蓑輪顕量 先生(東京大学人文社会系研究科教授)

 

③「戒律、サンガ、マインドフルネス・トレーニング(気づきの練習)の密接な関係について」

講師: ブラザー・ファプチャック (プラムヴィレッジ・ダルマティーチャー)

 

⭐️「日本伝統仏教者のためのリトリート」です。参加者には僧侶の方が多いですが、仏教徒であるという意識のある在家の方々のご参加も可能です。是非一度ご連絡ください。

 

  → お申し込み・お問い合わせはコチラから: http://www.jyba.ne.jp/activity/workshop/retreat.php

 

本リトリートへの御参加のお申し込みを、心よりお待ちしています。

 

 

主催/全日本仏教青年会・プラムヴィレッジ招聘委員会

協力/曹洞宗大本山總持寺・公益財団法人仏教伝道協会


後援/世界仏教青年連盟(WFBY)

 

 

 

 

 

【プロフィール】

ブラザー・サンライト(俗名:宮下直樹 みやした・なおき)

1964年、富士山麓の古い神社の家系に生を受けるが、フジヤマ織りの会社を営む父の仕事で、大阪に生まれ育つ。大学で東京に出て、竹内敏晴、野口三千三と出会う。彼らの元で身心ワーク(竹内レッスン、野口体操)に開眼。仲間たちと独自の身心ワークの探求(虹の会)を開始。大学院(フランス文学研究科)での研究テーマは「リアリズムとは何か」。この頃、富士山麓の神社の宮司となる。その後、坐禅の本格修行に入って10年間、臨済宗の専門道場に通参。2012年8月、東京八王子のミニリトリート(東京サンガ主催)でプラムヴィレッジの「マインドフルネス」と出会う。2013年、ティク・ナット・ハン師を日本に招聘する活動を開始。その後、仲間たちと「微笑みの風サンガ☆東京」「プラムヴィレッジ招聘委員会」を立ち上げ、毎年「プラムヴィレッジ僧侶団マインドフルネス来日ツアー」を実現。2016年、2017年と、タイ プラムヴィレッジで「三ヶ月間出家プログラム」を二度体験後、正式出家して、沙弥となる。2019年4月末、「来日ツアー2019」でプラムヴィレッジの僧侶となって初来日する。

 

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私と世界を幸福で満たす食べ方・生き方怒り怖れ和解ブッダの幸せの瞑想【第二版】今このとき、すばらしいこのときティク・ナット・ハンのマインドフルの教え