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2017.08.25

webサンガジャパン

ティク・ナット・ハンの軌跡その11「世界に拡大するプラムヴィレッジの コミュニティとサンガ~宗教の枠を超えて広がっていく教え」

世界に拡大するプラムヴィレッジのコミュニティとサンガ

いっぽうアメリカ以外にも、21世紀に入ってから僧院や瞑想センターが設立されるようになった。その特徴は、仏教の枠を超えた実践を以前にもまして前面に出していることだ。

2008年8月、ドイツのヴァルトブレールに、「ヨーロッパ応用仏教研究(European Institute of AppliedBuddhism= EIAB)が設立された。あらゆる分野の人たちを対象に、仏教の教えをもとにしながら実践的な学びを提供することを目的とした、超宗教的な機関である。

その役割は、経典の研究にもとづき日々の生活に生かせるようなトレーニングを行うことと紹介文にある。具体的には“The Art of Mindful Living”(マインドフルな生きかたを活用する方法)を身に着け、個人の内的な苦しみと同時に、あらゆる集団や組織の平和と喜びのために用いると書かれている。

ウェブサイトに「EIABにおける仏教は宗教ではない」と明記されているように、研究所の設立とともにタイとUBCサンガの活動は、さらに仏教の枠を超え、宗教的に抵抗のあるような教育やビジネスや医療などの分野にも積極的にアプローチするようになった。

タイ自身も、法話の中で仏教用語の多くを日常用語に置き換え、著作物にも仕事やコミュニケーション、食事、育児など、広く一般にあてはまるテーマが取り上げられる傾向が強くなっている。

EIABでは現在、40名近くの出家者が在住し、出家・在家を含めて多くのダルマ・ティーチャーたちが教えている。毎週のように様々なセミナーや講演が行われ、非常に充実した活動を行っている。

2011年には、香港に「アジア応用仏教研究所」(AsianInstitute of Applied Buddhism= AIAB)が設立された。

当地には2007年から「プラムヴィレッジ香港」が置かれ、何人かの僧・尼僧が居住していたが、その4年後蓮池寺と竹林僧院が併設され、EIABと同じ超宗教的理念のもとAIABがスタートした。ここはアジアの中心的な活動を担うセンターであり、タイが2年に一度行うアジアツアーでは必ず立ち寄り、リトリートや講演を行っている。

2011年5月にはタイの来日が企画されていたが、東日本大震災のため直前でキャンセルされた。ツアーの変更によって一行は、しばらく香港に滞在することになった。

5月1日にタイによって初めてのマインドフルネスの1日が催され、それが香港僧院とAIABの船出となる。それに続いて、ウェサク祭や香港の僧・尼僧たちによる3か月の長期リトリートが行われた。

現在蓮池寺及び竹林僧院には、約20名の出家者が常駐。距離的な近さもあり、2013年5月のティク・ナット・ハンリトリートには、日本から約40名が参加した。

その後も香港の僧院長が日本のサンガのメンター的な役割を果たし、2015年の来日に際しても日本のサンガと共同のオーガナイザー、アドバイザーとして働き続けている。

さらにタイ国において「プラムヴィレッジ・タイランド」の建設が進んでいる。2009年の弾圧によって、もっとも大きなプラムヴィレッジ系列の僧院であったバットナー寺の居住者をはじめ、ベトナムを追われた多くの弟子たちはタイ国へと避難した。その後タイ国内の支持者により、バットナー寺をタイ国内に再興するという理念のもとに立ち上がったのが、このセンターである。

現在新しく選定された広大な敷地で建物の建設が進行中で、未完成ながらプラムヴィレッジの出家者が約20人常駐し、リトリートなどの活動が始まっている。タイもアジアツアーの際にバンコクで講演を行うなど、タイ国での近年の活動は増している。

2015年暮れには、2004年にアメリカのディアパーク僧院で行われた全サンガによる「大結集」が、タイ国のセンターで行われる予定である。

オーストラリアでは、1986年の初めてのタイのツアー以来サンガ活動が継続し、2010年にナップリュー(流入)僧院と瞑想センターが設立された。2013年9月には、1週間のリトリートが世界各地から集まった20人の弟子たちによって行われ、本格的な活動が始まった。

センターではまだ大規模なリトリートは行われないが、広大な土地が寄付によって与えられ、現在拡張途上にある。

 

21世紀はサンガの時代

2009年夏、ボストン郊外のリトリート中、タイは慢性の肺炎を再発してボストンの病院に2週間入院した。こうした際に彼は、必ずサンガにメッセージを送っている。

タイがつねにサンガと相互存在(Inter-Be)していること、両者はひとつであり今こそサンガの調和をはかるときだという言葉である。

近年のタイは、すべての存在は継続であり、始まり(誕生)も終わり(死)もないことを強調している。サンガがタイの後継であり「ひとりのブッダでは十分ではない*22」こと、サンガが大事であることを伝えている。幸いにも予後は良好で、彼は退院直後からツアーに復帰した。

*22 タイ不在のリトリートからの学び―サンガの重要性について書かれた、リトリート後に発行されたタイと弟子たちによる共著のタイトル。原書は“One Buddha Is Not Enough: A Story of CollectiveAwakening” (Parallax Press 2011)

2015年、日本でもタイ不在のなか開催されたリトリートの記録をまとめている。

『ティク・ナット・ハン マインドフルネスの教え―プラムヴィレッジ来日ツアー2015ドキュメントブック』

 

宗教の枠を超えて広がっていく教え

20世紀終わりころから全米に広がりだしたマインドフルネスブームは、その効果が脳神経科学で検証されるようになってから、心理分野では自己洞察、医療分野ではストレス低減、教育やビジネス界でも集中力や創造性の発揮などで注目され、応用されるようになってきた。

そしてグーグル、インテル、アップルなどの大企業や、大学、大病院、様々な研修などで、積極的に実践が取り入れられるようになってきた。

1960年代からアメリカをめぐり講演やリトリートを通じて教え続けてきたタイは、マインドフルネスの先駆けと認識されており、以前からタイを知って実践してきた人たちに加えて、著作物の読者、瞑想の実践者は増加した。

彼を招いて講演やリトリートを実施する組織も多岐にわたっている。

2003年、2011年には、アメリカの連邦議会で「明晰さと慈悲と勇気をもって国家を導く」というテーマで講演を行い、瞑想を指導。2006年、パリのユネスコ本部で、暴力、戦争、地球温暖化の悪循環を解消する具体的手段を要請する講演を行う。

2008年、インド国会にて「勇気と慈悲で国家を導く」という開会の辞を述べる。2009年、メルボルンの万国宗教会議でヴィデオを通しての講演。

2012年、英国議会と北アイルランド議会で、慈悲と非暴力のメッセージを伝える。

そのなかでもビジネス界に大きな波紋を広げたのは、2011年、カリフォルニアのグーグル本社で行われた、「マインドフルな消費の実践」をテーマにした1日リトリート(マインドフルネスの1日)であった。そこでタイは、企業は社会の変革に積極的に寄与することができると、期待をこめて述べている。

グーグルでは再度2013年にもリトリートを行った。また、世界銀行本部やハーバード大の医学部でも、同様なプログラムで講演と1日リトリートを行っている。

タイの著書は英語版だけでもすでに百冊近くに及ぶが、インターネットの普及によって法話やリトリート、インタビューなどの動画や音声が視聴可能になり、プラムヴィレッジ関連の活動の様子もリアルタイムで知ることができるようになった。

タイ自身、インターネットを始めとする現代の機器をマインドフルネスによって活用することを是としており、マインドフルベルの新たなアプリケーションも開発されている。

その反面、伝統的な毛筆によるカリグラフィー(揮毫)の個展も、2010年の香港を皮切りに、リトリートと連動するようにして世界各地で開催されている。タイ自身の言葉では、書道はアートにとどまらずマインドフルネスの瞑想であり、言葉によってブッダの教えが届けられるという。

売り上げは、プラムヴィレッジ関連のセンターの建設や活動、ベトナムや第三世界の子どもたちの支援に使われている。

 

執筆:島田啓介(ゆとり家

(次号が最終回です)

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本記事は、『サンガジャパン19号』からの引用です。