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ティク・ナット・ハンの軌跡その8「プラムヴィレッジのはじまり~世界に向かって展開するプラムヴィレッジ」
第4部 プラムヴィレッジを拠点に世界に広がる活動(1982~2000)
プラムヴィレッジのはじまり
『スウィートポテト・コミュニティ』には、多くの人が援助やリトリートのために押し寄せ、すでに手狭になっていた。1982年、彼らはフランス南西部ドルゴーニュ地方のテナックという小村に、土地と築200年の古い家畜小屋をいくつか買い求める。
「上の集落」「下の集落」と名づけられた二か所の土地は、はじめLang Hong(パーシモンヴィレッジ=柿村)と命名された。彼らの最初の取り組みは、下の集落のまわりにプラムの木を植えることだった。収穫の売り上げを、第三世界の子どもたちの援助資金に充てるためである。
十年後にプラムの木は1,250本に及び、収穫は年に6トンにのぼった。これにちなんでコミュニティを『プラムヴィレッジ(すもも村)』と改名。僧院・瞑想センターとしての歴史が始まる。
初めての夏のリトリートが開催されたのは翌83年で、参加者は113人だった。その数は1990年に1,000人、2000年には1,800人となり、去年(2013年)は4,500人にものぼった。集落は現在四か所に増えている。
初期のころからリトリートの内容は定まっていた。夏のあいだの一カ月、一週間ごとに区切られた滞在期間。英・仏・ベトナム語による法話とタイや弟子たちのガイダンスによる瞑想の実践。家族や仲間たちと協力しながら過ごすサンガワーク。
文化や季節の行事や、子どもプログラム。歌にあふれた会場である。満月祭や先祖の日(盂蘭盆会)と並んで、ボートピープルへの祈りや原爆忌なども行われた。
1987年には、ベトナム人の僧・尼僧、ベトナムからの難民、数人の西洋人を含めて、居住者は50人になった。その半分が出家者だった。タイは四年間の特別プログラムを通して、僧・尼僧や一般の人びとにマインドフルネスにもとづくトレーニングを行い、ダルマ・ティーチャー(実践の指導者)に任命した。
また西洋の参加者からの要請で、隔年ごとの六月、テーマをもった特別リトリートを開始する。のちに三か月の冬のリトリートに加え、秋、春のリトリートも開催されるようになった。
世界に向かって展開するプラムヴィレッジ
プラムヴィレッジがスタートした1982年に渡米し、ニューヨークで命を尊重する会議に参加したタイは、東洋の文化と瞑想への関心の高まりを実感する。戦争当時のアメリカの平和運動に暴力的な精神性を認めたタイは、戦争の根にある憎しみや絶望に取り組むことを訴え続けてきた。
戦後も続く難民や人権問題、アメリカ国内の帰還兵の問題など、政治・社会的な取り組みだけでなく、精神面にフォーカスした実践が必要なことは明らかだった。
1983年タイたちは、仏教平和教会(BPF)とアメリカ友和会の招きに応じ、カリフォルニア山中のタサハラ禅センターにて、仏教の根本的な教えと平和活動をテーマにリトリートを行った。
アメリカ在住の若いベトナム僧ティン・トゥ師は、ワトソンヴィルにキム・ソン僧院を設立し、毎年タイを招いてリトリートを開催した。まだ在家者だったフーン(シスター・チャンコン)にも法話を依頼しており、革命的な出来事と彼女は述懐している。
この僧院を拠点にベトナム仏教徒のネットワークが組織され、アメリカのベトナム難民の和解が進んで行った。
こうしてタイとフーンは、プラムヴィレッジ設立の翌年からアメリカをはじめカナダ、ヨーロッパ全域、オーストラリア、ブラジルなどをめぐり、マインドフルネスの実践を伝え始める。フーンがリトリートで正式に法話を始めたのは、1987年のオーストラリアからである。多忙なタイもフーンを信頼し、多くを任せるようになっていく。
彼女は若いころから尼僧となることを夢見ており、タイや仲間に何度もその決意を表明してきたが、まわりはソーシャルワーカーとしての彼女の役割を重んじたので、長年在家にとどまっていた。
1988年、ブッダ伝*18を脱稿したタイと36人の一行は、インドに渡り、ブッダ由来の聖地をたどるツアーを行う。霊鷲山で行われた得度式で、フーンは他のふたりの女性とともに剃髪を受け、チャンコン(真空)という名を授かり尼僧となった。
出家によってシスター・チャンコンは、すべての仕事がより円滑になったと述べている。プラムヴィレッジの建設と発展は彼女を中心に加速し、ヴィレッジは多くのベトナム難民や出家たち、やがて世界中から宗教の違いを超えた訪問者、居住者を迎えるようになる。西洋人の僧・尼僧も増えていった。
*18『小説ブッダ―いにしえの道白い雲』(春秋社 二〇〇八)
執筆:島田啓介(ゆとり家)
(つづく)その9
本記事は、『サンガジャパン19号』からの引用です。
サンガジャパンvol.19「ティク・ナット・ハンとマインドフルネス」
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