サラナ サラナ

 

川本佳苗『〈連載〉ぶぶ漬けどうどすか?』 
第8回「〈コロナウィルスに対するスナンダ考と質問コーナー〉女性と仏教についての私見」――新進気鋭の仏教学者 川本佳苗こと、元・サヤレー・スナンダの 「ぶぶ漬けどうどすか?」
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「〈コロナウィルスに対するスナンダ考と質問コーナー〉女性と仏教についての私見」

新進気鋭の仏教学者 川本佳苗こと、元・サヤレー・スナンダの「ぶぶ漬けどうどすか?」第8回

京都大原三千院~恋につかれた女が~ひとーりー♪

こんにちは! 法名スナンダこと川本佳苗です。何かもうコロナウィルスで一気に世紀末感ですね! パンデミック怖いですね。実は私にも強力なパンデミックな能力があるんですよ。それは「笑い」です! 生粋の関西人ですから、こんな暗い世の中をコロコロ笑い声で鳴らしていこうと思います。

 

外出自粛になる前の2月末に大原に行きました。

もちろん心の中で「きょおと~おおーはら、さんぜんいん」と歌っていました。

 

大原は人が少なくてとっても気持ちよかった!

 

私は3月からアメリカで二つの学会で発表する予定だったんですけど、どちらも中止になりました。飛行機やホテルのキャンセル料はお財布が痛かったです(涙)。もそこは超ポジティブな私なので、3月中ずっと京都にいられるやーん、次の論文を書いたり、4月からの大学の授業の準備したり、それからお引越しもしたのでゆっくり時間とれるやんラッキー!って思うことにしています。

 

新居のリビングルーム。アンティークの家具なんですよ。

 

コロナ禍における仏教徒マインドとは

それから、これは周りの人にも言っているんですけど、私は仏教徒だからこんなふうに考えています。今回のコロナウィルスに状況は、われわれの業果なんです。何をやったのか分からないけど、われわれ人類が過去にやらかしてしまった行いの結果がもたらされたのです。そのやって来た状況に対して、私たちが悪意をもって反応してしまうと、さらなる悪業を増やしてしまいます。

 

政府や行政の対応に不満があるかもしれません。でも、暴力や攻撃という手段の代わりに、サティと智慧を使って賢明に判断し行動していくことで、より良い最終結果を善果として導けるはずです。そしたら将来、あのときは大変だったけど頑張って良い結果に転じることができたねー、あれが起きたことで大きな学びになったねー、災い転じて福となったねーって、みんなで笑って話せる日が来ると信じています。

 

仏教徒である皆さまはもちろん業(カルマ)を信じていらっしゃると思いますから、何であれやってくる出来事は業果だと受け止めつつも、「運命やし、しゃーない」と受身になって甘んじるのではなく、より良い結果へと繋げるためにマインドフルに行動していきましょ!

 

女性と仏教

はい、では今回は、海外在住の日本人僧侶Sさんよりいただきました。海外でがんばる日本人仏教徒を、私は「戦友」だと思っています。気候とか食べ物とか衛生状態とか違うので、きっと生活は大変だと思うんです。実際、私は大変でしたもん。それでも修行や勉強のために精進していらっしゃることを素晴らしいと思います。

 

質問:女性と仏教についての私見などについて教えてください。

 

 わーい、私見でよろしいならのびのびお答えします! 第3回目の連載で「女性の出家はどのような状況にあるのか」というご質問に回答しているので、今回は、テーラワーダ仏教の世界で女性がどういうふうに見られていて、それに対して私がどう感じているかをお話しします。

 

女性に生まれたのは前世で不倫したから?!

 あれは忘れもしない、私がミャンマーで通っていたITBMU(国際テーラワーダ上座部宣教大学)の一年目でした「ダンマヌローマ」という在家仏教徒の心得を教える初級向けの授業がありました。バーコード(知ってます?)の髪型の先生は、日本にいても「外回りの仕事して日焼けしたおっちゃん」として違和感なさそうな、とっても優しい先生でした。

 その教科書の五戒の不邪淫戒の項目に「浮気や不倫をすると、悪果として女性に生まれる」と書いてあったので、私は「へ? なんで???」と不可解でした。実際に、タイでもミャンマーでも、男性に生まれる方が優れている、なぜなら比丘出家できてより悟りに向けて修行できるから、だから女性としての生は、悪業による残念な結果だという考え方が一般的です。

 でも、その論拠は三蔵のどこにあるの?と私が大学や寺院で聞いて回っても、明確な答えは返ってきませんでした。そこでスナ子は余計にむむぅーっと思ったのです。で、自分なりに調べて『テーリーガーター』にその元ネタらしきものを見つけました。

『テーリーガーター』にある女性に生まれる因果①イシーダーシー

 それはイシーダーシー尼の詩句です。彼女は最初の夫に貞淑に尽くしたにもかかわらず「彼女は何も悪くないけど、とにかく嫌いだから一緒に暮らしたくない。」と離縁されます。その後、再婚するのですけどやはり二人目の夫からも一方的に追い出されます。

 三人目の夫は托鉢していた修行僧で、イシーダーシーは「こんなボロ衣を着て貧乏な彼なら、私との結婚にも不満を言わないんじゃないかしら」と期待したのか? 逆プロポーズします。まあ現代の婚活市場でも、もう若くなくてバツ2にもなれば、要求するスペックを下げてお相手を探さないといけませんよね。あうっ、耳が痛いわっ、どうしてかしらっ。

 ところが! そんな彼からも「修行の生活に戻りたいよぅ。お前とは一緒に暮したくない」と逃げられてしまいます。ついにイシーダーシーは自分も出家して仏道を歩むことを決意します。

 修行に励んだ彼女は、自分の過去世を見ることに成功し、結婚に失敗し続けた原因となった原因を知ります。それは、若い男性だったときの過去世で人妻と不倫したからでした。その悪業のせいで死後も地獄で長い間苦しみ、やっと動物に生まれ変わっても去勢され、人間に生まれるようになってからも不幸続きでした。でも、イシーダーシーは今生が最後だと知り、今までの不幸の元凶であった悪業を終滅したのでした。

『テーリーガーター』にある女性に生まれる因果②アンバパーリー

 でも、もっと有名な比丘尼のアンバパーリーなんて出家前は高級娼婦でしたよね。彼女はお布施もバンバンして在家仏教徒としてがんばっていましたね。彼女が出家前の人生を不幸だと思っていたかどうかは記述に残っていません。そして比丘尼になってからは、見事に涅槃に入っていらっしゃいます。

 アンバパーリーの現役時代のお客には、既婚者男性もいたはずです。女性が既婚男性と邪淫するのはOKで、男性が既婚女性と不倫するのはアウトなの?って何だか納得いきませんよね。

 これはあくまで私の推測ですけど、アンバパーリーの場合はプロとして仕事に徹したので、彼女の心が相手の男性に対してそれほど動いていなかったんじゃないでしょうか。また、お客側の男性にもお金を払って接客してもらったという割り切った意識があったのかもしれません。なぜなら仏教は心(citta)の働きが業の形成に大きく影響するからです。男性であろうと女性であろうと、きちんとしたパートナーがいながら欲望だけで動いて相手と邪淫すると、大きな悪業になるんじゃないでしょうか。

 そのほか、ミャンマーの伝統的な仏教理解では、同性愛に対する批判が厳しくて、五戒の「不邪淫戒」には浮気と不倫以外に同性愛を含む場合があります。もちろん、「相手が異性だろうと同性だろうとパートナーシップにある人は、浮気しないことが不邪淫戒を守ったことになる」という解釈も見られます。

浮気ダメ、ぜったい!

 そろそろ「女性と仏教」について私の考えをまとめますね。現在でもテーラワーダ仏教の伝統では、女性蔑視の見解は根強いです。でも『テーリーガーター』を読めば、ブッダの時代の女性たちがバンバン涅槃に入っていたことが分かりますし、悟りに関して女性は男性に比べて劣るわけではありません。また、不倫は悪業であることは明白である一方で、女性の生が不倫の結果もたらされ男性よりも劣る生だと説く論拠は私を、見つけていません。イシーダーシーの物語のポイントはそこじゃありません。

 あなたが、またあなたの相手が男性だろうと女性だろうと、パートナーがいる人は誠実な関係をキープしてくださいね。浮気ダメ、ぜったい!私も仏教徒になってからは五戒を守ろうと努めていますので、浮気するなんて考えただけですごく怖いです。スナンダは一途な女よっ。

 

 最後に、『テーリーガーター』は男性だけでなくぜひ女性の皆さまに読んでいただきたいです! ブッダの時代に生きた女性たちが、さまざまな生い立ちや経緯にもかかわらずブッダや仏弟子に出会って出家し、阿羅漢の悟りを得て涅槃に入るまでが切々と描かれています。日本語だと中村元先生の訳で岩波文庫の『尼僧の告白』が読めます。私は読むたびウルッときます。

 

 他にも、これまでの連載についての質問や、私に質問したいこと、ミャンマー仏教で知りたいこと、連載で取り上げてほしいこと、感想などがございましたら、メールアドレス[info@samgha.co.jp]宛に件名「ぶぶ漬け」と書いて送ってくださいね!

 

慈悲をこめて、

 

スナンダこと川本佳苗

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川本佳苗(かわもと・かなえ)

京都府出身。出家名スナンダ。京都大学東南アジア地域研究研究所研究員。専門は仏教倫理(自殺・自死)と東南アジアの瞑想実践・仏教文化。2008年よりミャンマーの国際テーラワーダ布教大学に留学し、パオ(パーアゥッ)瞑想院で尼僧として修行する。2014年にタイのマハーチュラーロンコーン大学で修士号を取得後、日本学術振興会特別研究員(DC)・ベルン大学宗教学研究所研究員を経て、2017年に龍谷大学大学院で博士号を取得。国内外で広く活動し、”Love Incessantly Flows: Mae Naak, a New Asian Opera Heroine Born outof a Thai Buddhist Narrative“(Contemporary Buddhism、2017)、「パーリ経典に描かれる比丘の自殺と対話の意義」(『別冊サンガジャパン④ 死と輪廻』、2018)など多数の論文を発表。『K.N.ジャヤティラカ博士論文集 第1巻』を翻訳。

 

Website: https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/organization/staff-2/kawamoto/

 

『サンガジャパンVol.34お金』(2019年12月末刊行)では、スナンダ節でサヤレー時代のお金にまつわる苦労話を書いています。

 

『K.N.ジャヤティラカ博士論文集 第1巻』

ジャヤティラカ博士論文集 第1巻

『別冊サンガジャパン④ 死と輪廻』