新進気鋭の仏教学者 川本佳苗こと、元・サヤレー・スナンダの「ぶぶ漬けどうどすか?」第9回
こんにちは! 法名スナンダこと川本佳苗です。新記事が遅れて申し訳ございません……。4月から7月の前期は、大学がオンライン授業で大変でした! でもこのブログの調子で学生からの質問にスナンダ節炸裂で回答してたんですけど、これが大好評でした!一人で喋っていると誰も止めてくれないからテンションがどんどん上っていきました。これ公開してもええんやろか?って心配になったんですけど、「良い意味で大学の先生らしくない話し方が聞きやすかったです」という感想をいただきました(笑)。 次回、そのお話をしますね。
ヘッドセット装備で録画中のスナンダ。
私の近況報告ですが、緊急事態宣言下の自粛生活中に送られてきたサプライズ・プレゼントが! ヤンゴンの国民民主連盟(NLD)本部内ショップで売られているグッズです。このカップでコーヒー飲むとテンションダダ上がりします! 目下の悩みは、いつどのタイミングでこのTシャツを着ていくかということだけです(現在未使用)。
ミャンマー独立の父・アウンサン将軍のTシャツとマグカップ。
ミャンマーをよく知らない知人が「スライスした食パンみたいな顔」って言ったんですけど、ひどい!お父ちゃんイケメンやん!
マグカップの裏面は娘のアウンサンスーチーさん。一個で二度おいしい!
最近は悲しいニュースが続いていますが、まず、サンガの島影透社長のご急逝に哀悼の意を申し上げようと思います。
私が島影社長とお会いしたのは、2018年12月6日に開かれた「K.N.ジャヤティラカ博士 論文集』刊行記念イベント」での対談だけです。ですので、生前の思い出は多くありませんけど、この対談はとにかく面白くて私はゲラゲラ笑っていたことを覚えています(イベント自体も好評だったそうです)。
トレーラー1『K.N.ジャヤティラカ博士 論文集 第1弾』 刊行記念イベント 出演:アルボムッレ・スマナサーラ 川本佳苗 島影透
享年63歳は、現代日本においてはそれほど長い寿命とはいえないかもしれません。仏教では短命は確かに悪業の結果とブッダもおっしゃっていますけれど、長期間苦しんだりせず眠るように急死するという亡くなり方は、素晴らしい善業の結果ではないでしょうか。人間は長い人生のなかで、もっというと何千何万と脈々と続く輪廻のなかで、善いことも悪いことも無数に行ってきています。何かが起こるときは、これまでのさまざまな善業と悪業の組み合わせや配分によってもたらされる結果なのです。島影社長の逝去についても同様のことがいえると思います。
私はテーラワーダ仏教徒ですし、島影社長もそうでいらっしゃったと思います。テーラワーダ仏教では、生き物は死ん後、瞬時にどこかに転生します。ですから、かつて島影社長でいらっしゃった存在は、すでにこの世界で新しい生をスタートしていらっしゃるはずです。何に生まれ変わっていらっしゃるのでしょう? 生前あんなに熱心に仏教に携わっていたのだから、今また仏教国にいらっしゃるのかな? 熱心な仏教徒の家庭で生まれていたりして? やっぱりちょっと強面の赤ちゃんなのかしら? それとも人間界をすっ飛ばして天界に転生なさっているとか? なんて、想像してしまいます。
私のような駆け出しのポスドク研究者を信頼して、次々と執筆のお仕事を依頼してくださったご英断には感謝しかありません。どうか新しい生でも、まわりの人と楽しく幸せにお過ごしくださいますように。そして、私よりもうんと年下の、かつて島影社長だった誰かと私が生きている間に会えたらいいな、と思っています。島影社長、有難うございました。
はい!では恒例の「スナンダへの質問」コーナーです。今回は、同じ京都大学で研究なさっているTさんからです。
質問: 異性に誘惑されたわけではなく、新たな人生ヴィジョンに目覚めたために今までのパートナーが眼中になくなってしまった場合はどうなんでしょう? 例えば現代日本で、お釈迦様みたいに「出家するぜ!」て、お父さんが妻子を残して出て行ってしまったら困るような気がします。
このご質問は、前回の記事の「浮気や不倫が邪淫という悪業」という仏教思想に対して「心は変化するものだから浮気はしょうがない。去るもの追わずです。婚姻制度も人間が作ったものだし、本気で心変わりした場合にどこまで縛られるべきなのかな」という疑問から生まれたそうです。
うん、面白い! そして「浮気しょうがないじゃん」派のドライな女の子うらやましい! はい、一つずつ分けて片づけましょう。
まず、執着をよしとしない仏教ですと、極論は「パートナーが他の人と浮気したら、そのまま浮気相手にあげてしまいなさい」です。そんなの難しいですよね……。でも、やっぱりそこは乗り越えないといけないんでしょうね。
で、どこからが邪淫かというと、恋人同士の場合は含まれなくて、婚姻関係から適用されるという考え方が仏教では一般的です。じゃあ現代のたとえば欧米にあるようなパートナーシップ制度はどうなん? というと、テーラワーダ仏教の指導者に聞いたところ、それも含まれるようです。
じゃあ結婚とパートナーシップは同じなの? って聞かれると、私が教理に照らし合わせて考えるなら、同意(agreement)の要素が大きいと思います。仏教では心の働き、つまり意識が作るカルマが一番重要だからです。婚姻制度もパートナーシップも人間が作ったものだし、婚姻届によいしょっと判を押すことは身体的な作業です。そうではなくて、当事者同士の心がどう動いているかの方が大切です。つまり、お互いがパートナーに望むことが一致していることを確認した上で関係を結び、その責任を守っているかどうかです。そういうお互いの気持ちの上での同意があるかどうかだと思います。
で、ご質問自体への回答ですが、ミャンマーでは家庭がある男性が「出家したい!」って出て行ってしまって、残された家族が悲しむケースはめーっちゃ多いです。離婚の原因が浮気とか借金みたいな世俗の原因じゃなくて出家だと、仏教徒にとっておめでたいことでしょ。だから家族も世間もそこは文句言いづらいみたいです。あと、妻子ある男性で「オレ、60歳になったら出家するのが夢なんだ」と語る予備軍にもよく出会いましたね……。
あと、男性が出家したばかりに引き割かれる恋人同士という設定は、タイやミャンマーの映画やドラマでは、おなじみの悲恋のテーマなんですよ。このご質問の主旨とはズレますけど、1~2年前のタイのTVドラマで、失恋したショックで男の子が出家してしまうんですけど、その後元カノが亡くなり、僧侶としてお葬式に出向いて号泣する場面が「僧侶として不適切」だという理由で検閲されたというニュースもありました。
でも、ミャンマーで夫婦で仲良く出家して同じ僧院で修行しているケースもチラホラお見かけしましたよ。それはそれで素敵な老後だと思います! ブッダも突然失踪しちゃって男としてはサイテーやけど、ちゃんと悟ってくださり仏教を確立してくださったからこそ、現代の私たちがその教えを学べるんだし、後で奥様も息子もみんな出家して解脱なさいましたから、まあハッピーエンドなのかな。
はい、今回はこんなところでおしまいです。またすぐ次号を書きますね!
他にも、これまでの連載についての質問や、私に質問したいこと、ミャンマー仏教で知りたいこと、連載で取り上げてほしいこと、感想などがございましたら、メールアドレス[info@samgha.co.jp]宛に件名「ぶぶ漬け」と書いて送ってくださいね!
慈悲をこめて、
スナンダこと川本佳苗
川本佳苗(かわもと・かなえ)
京都府出身。出家名スナンダ。京都大学東南アジア地域研究研究所研究員。専門は仏教倫理(自殺・自死)と東南アジアの瞑想実践・仏教文化。2008年よりミャンマーの国際テーラワーダ仏教宣教大学に留学し、パオ(パーアゥッ)瞑想院で尼僧スナンダとして修行する。2014年にタイのマハーチュラーロンコーン大学で修士号を取得後、日本学術振興会特別研究員(DC2)・スイスのベルン大学宗教学研究所研究員を経て、2017年に龍谷大学大学院で博士号を取得。国内外で広く活動し、「パーリ経典に描かれる比丘の自殺と対話の意義」(『別冊サンガジャパン④ 死と輪廻』、2018)など多数の論文を発表。『K.N.ジャヤティラカ博士論文集 第1巻』を翻訳。
Twitter:@Kanae_Sunanda
Website: https://researchmap.jp/KanaeKawamoto
『サンガジャパンVol.34お金』(2019年12月)では、スナンダ節でサヤレー時代のお金にまつわる苦労話を書いています。